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横浜家庭裁判所 昭和44年(少)2461号 決定 1969年9月03日

少年 S・R(昭二八・一二・五生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してある登山ナイフ一丁(昭和四四年押第一〇九号符号一)は、これを被害者有限会社○○屋に還付する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、川崎市○○○×丁目○○○番地所在○○○○高等学校第一学年生で同校学修寮に入寮していた者であるが、

第一  昭和四四年四月○○日午後五時ころ同市○○×丁目○番○○号タバコ荒物雑貨商有限会社○○屋店舗内において同会社所有の登山用ナイフ一丁(時価約九五〇円相当)を窃取し、

第二  東京都内の○黒○○○○中学校在学当時からの少年の級友で、ともに前示高校に入学し、引続き級友の間柄にあつた○賀○洋(当一五歳)より、中学校当時から優越的な態度をとられ度々悪戯をされ蔑視されていたため、同人に対し強い憤懣の念を抱きながら隠忍していたところ、たまたま昭和四四年四月△△日午後後二時五五分ころ同高校教室内で○賀○洋が少年の国語辞典を取りあげて同辞典の間に少年の極度に嫌う毛虫を差し挾もうとするなどの悪戯をしたのを目撃して、これに憤慨したけれども、いつたん同人を廊下に呼び出し同人の関心を換えるため「おい散歩に行こう」と誘つてそれを応諾させたうえ、学修寮のロッカーから前示(第一)のナイフをひそかに出して隠し持ち、同人とともに同日午後三時三〇分ころ同市○○○南△△○○○○番地の一の畑地内に赴いたあげく、同所で同人に対し所携のナイフを見せたのに、同人がそれには何もいわずにそれを少年に返す際「お前の顔はヤッパリ豚に似てるなあ」といつた。その言葉等に、少年は、憤激し、○賀○洋を死に致すも止むを得ないと決意し、所携の登山用ナイフでいきなり同人の背後から頸部附近を約二回突き刺し、ついで振り返つた同人の胸部などを数回突き刺し、さらに逃げる同人の背部胸部等を数回突き刺し、よつて同人を胸部等刺創に基く失血により即死させたものである。

(法令の適用)

第一の所為につき 刑法第二三五条

第二の所為につき 同法第一九九条

(要保護性)

当裁判所は、少年について、相当長期間(昭和四四年四月二八日から九月三日まで。この途中で鑑定留置約一一〇日)にわたり詳細な鑑別および鑑定を求め、家庭裁判所調査官(担当官二名)による調査を併行し、その結果を相互利用させたあげく各所見等の提出を得たのであるが、少年の処遇に関する所見は、中等少年院送致と医療施設収容とに大別される。

そこで、当裁判所は、審判の結果に各般の資料を総合してみると、少年に対する処遇としては、次の理由から中等少年院送致を相当と思料する。

<1>  少年は分裂病質の精神障害者であり、先づ施設に相当長期間にわたり収容して、これに心理療法や生活指導等を施す必要があると認められること(調査官、鑑別技官、鑑定人の意見同旨)。

<2>  上記<1>の収容施設は、少年院か、他の医療施設かであるが、少年は、狭義の精神病者ではない(鑑定人、鑑別技官の所見同旨)と思われるので、精神衛生法による強制的入院をさせ得ないところ、任意ではその入院や在院を長期(または一定期間)にわたつて確保し難いこと(本人の在院意思と医療費負担(父)の継続を保し難いから)。

<3>  少年の年齢が一六歳以上であるならば、本件は罪質と情状に照らす場合、処遇の第一案としては、刑事処分相当とも認められるものであること(少年は、カッとなつて、登山ナイフを逆手にもち、相手方の頸部・頭部・顔面・胸部・背部を数十回突き刺したあげく、憎さや恐しさの余り首を切断して蹴飛ばしたというが、殺意については、未必の故意も認めていないのであるけれども、当裁判所は、諸般の経緯情況に照らし、その故意を認定する次第であるところ、少年が加害当時心神そう失や耗弱の状態になかつたのみならず、かえつて○賀○洋も自己も第三者から加害を受けたもののように偽装していることなどが認められる)。

よつて少年法第二四条第一項第三号、少年院法第二条第三項、少年審判規則第三七条第一項、少年法第一五条、刑事訴訟法第三四七条第一項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 新川吹雄)

参考一 少年調査票<省略>

参考二 学校照会書<省略>

参考三 学校照会書<省略>

参考四 鑑別結果通知書<省略>

参考五 S・R精神鑑定書<省略>

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